清浄心院 Pop Up レストラン 料理会のご報告

精進料理会

 高野山の伝統を生かした、新しい精進料理。高野山麓の新鮮野菜にこだわり、仕入れの農家や加工業者も厳選。一流の料理人が生産者を一軒一軒訪問して食材を仕入れ、誰も食べたことのない精進料理をつくる。そんな思いのもと、このたび、大阪『味吉兆』と高野山『清浄心院』がタッグを組んだ新しい試みが高野山で始まりました。

 5月23日と24日、今回の料理会に先駆け、高野山麓や高野山周辺の魅力ある食材や加工品を探すため、生産者への視察会が行われました。『味吉兆』からは中谷隆亮・主人をはじめ、スタッフたちが参加。清浄心院からは寺務長の松村篤史氏、清浄心院文化歴史研究所メンバーの馬場麻美氏などが参加。高野山麓の生産者・加工品業者を10カ所以上直接訪問し、つくり手の思いやこだわりを2日間かけてヒヤリングしました。

 ある時は畑の中で実際に収穫したての野菜を頬張り‥。ある時は道なき山道を登り、野生と同化した果物や山菜の収穫現場に訪れ‥。また、金山寺味噌の加工所では伝統製法の現場を視察し、高野山上にある堀畑豆腐店では揚げたての薄揚げ、厚揚げを試食させていただくなど‥‥。食材探しの旅は終わりを知らず、夜まで続きました。食事をする方が幸せになれる、美味しい精進料理をつくるため、生産者と料理人の情熱が止まりません。

 そして、6月19日、20日の2日間。清浄心院 客殿にて料理会が始まりました。先付、小鉢、お椀、造り変り、焼物、焚合せ、鍋、ご飯、香の物、果物まで。この料理会のために、『味吉兆』の中谷隆亮・主人が高野山の文化や風土をイメージして考案した、特別な精進料理が順次運ばれてきます。

 素麺のように千切りにした茄子のお椀や、金山寺味噌で味わうパプリカけんちん詰め、たっぷり柔らかいクレソンと車麩の食感が絶妙な高野クレソン鍋など。日本料理の伝統を守りつつ、精進料理とは思えない独創的なアイデア、あそび心にあふれた料理に驚かされます。さらに、高野山麓の情景が凝縮されたような滋味深い新鮮野菜や、高野山ならではの胡麻豆腐、高野豆腐も堪能。ポーションも多めで大満足でした。

 2日間で全4回の料理は大盛況。すべての回において中谷隆亮・主人による挨拶もあり、参加者たちは笑顔で帰路につきました。

今回の料理会で提供された精進料理を、『味吉兆』中谷隆亮・主人が解説してくださいました。

先付 胡麻豆腐 山葵 割醤油

胡麻豆腐はあえて、今朝練りたてのものをご用意いたしました。練りたての胡麻豆腐はコシも違うし、香りも違います。三角に小豆がのった京都の水無月菓子にみたてた水無月豆腐です。

小鉢 トマト蜜煮 ミント 山桃
造り変り 
焼生麩 芥子醤油

小鉢はおいしいトマトがあるということで、蜜煮にし、冷やして召し上がっていただけるように。山桃も付けて。造り変りは麩善の生麩を焼き、甘辛いタレでまとめました。

お椀 茄子素麺 東坡豆腐 柚子

鮮度がいいので生で食べていただきたく、素麺のように千切りにした茄子に葛粉を打ち、サッとお湯にくぐらせてお吸いものにしました。高野山・堀畑豆腐の揚げ出し豆腐を使用しています。

焼物 パプリカけんちん 味噌ソース 実山椒

新鮮なパプリカはあゆみ農園のものを使用。高野山・堀畑豆腐の木綿豆腐を絞り、けんちんを詰めて、金山寺味噌をソースがわりに。そして、西 仁さんの実山椒を添えました。

焚合せ キャベツ 一寸豆 高野豆腐 法蓮草 針生姜

キャベツ、法蓮草は雑事のぼりの新鮮野菜を使用。高野山らしく高野豆腐もいただける焚合せです。

 高野クレソン 生湯葉 椎茸 車麩

山菜鍋からヒントを得た高野クレソン鍋。通常ならクレソンにはお肉をつけますが、精進なので植物性たんぱくの湯葉や利休麩(大徳寺麩)、くるま麩を合わせています。

ご飯 夏野菜ご飯

夏野菜ご飯。トウモロコシや枝豆、ズッキーニも入れてピラフのように。トウモロコシは一緒に炊いて甘みをご飯にうつし、ズッキーニはサッと炒めて炊き上がりに混ぜました。

香の物 水茄子 胡瓜 金山寺味噌

香の物は水茄子を使う場合、3日前にはけ込まないといけないので、お店にて仕込みました。金山寺味噌を添えて。

果物 桃

こちらから無理を言い、料理会の時に旬を迎える、あら川の朝採れ桃を用意していただきました。

料理をつくる人

 祖父が九度山のお寺の住職で、父もそこで生まれたこともあり、高野山には特別な思いがあります。ただ、祖父が若くして他界してしまったために父はお寺を継げず、料理人の道に入りました。ですので、今回のお話をいただいた時、とても深い縁を感じました。
 今回、高野山麓の農家さんを巡り、たくさんの良い出会いに恵まれました。生産者さんと直接お話をするのは勉強になりますし、新鮮で美味しいお野菜は現場に探しに行かないとなかなか手に入りません。在来種の水茄子を生でいただいた時の感動、パプリカの厚皮が気にならないほどの柔らかさ、添加物を一切使わない金山寺味噌の作り方も感銘を受けました。
 日本料理というのは素材の味を生かす料理です。素材や水の力をお借りしなければつくれませんが、高野山はお野菜も新鮮でおいしいですし、水もおいしい。そして、私たち料理人は生産者さんの気持ちを料理にして、お客様にその感動をお伝えすることが使命です。
 今回は精進料理は華やかさや遊び心があり、皆さんに驚いていただけるような料理を心がけました。精進ですのでカツオだしを使わず、昆布をベースに、味に深みが足らなくならないようにキノコやお酒の力を借りました。お酒も入れすぎると苦味が出てくるので、アルコールをとばすなど工夫をしています。
「高野山ならでは食材を使って精進料理をつくる」。私たちも初めての挑戦でしたので、その課題にどのように応えられるのか? それはとても勉強になりましたし、何よりも楽しかったです。
 


中谷隆亮(なかたにりゅうすけ)
『味吉兆』代表取締役。高級料亭『吉兆』の創業者・湯木貞一氏から暖簾分けを許可された『味吉兆』初代・中谷文雄が実父。大学卒業後は『東京吉兆』で3年間修業した後、先代の元で研鑽を積みながら二代目に就任。先代が『吉兆』から受け継いだ“世界へ誇る日本の食文化”を守り、国内外へ普及させていくため尽力している。現在、大阪市内にて『味吉兆 ぶんぶ庵』『味吉兆 堀江店』を経営。二店舗とも長年ミシュランガイドで星を獲得し続けている。

今回の視察会にご協力いただいた、こだわりを持ったものづくりをされている生産者の方々を紹介いたします。

農産物

雑事(ぞうじ)のぼり」による高野山麓野菜
(和歌山県橋本市高野口)

江戸時代から昭和初期にかけて、高野山麓の住民が奥之院御廟や山内寺院へ向かい、お米や野菜をお供えしたという「雑事(ぞうじ)のぼり」が復活。清浄心院ではこのバックストーリーを生かした高野山麓野菜を料理会や宿坊に宿泊される方に提供しています。

あゆみ農園の季節野菜
(和歌山県岩出市)

瑞々しいズッキーニやパプリカがおいしい農園。栽培期間が長いため、国産が1~2割という希少なパプリカを生産しています。冬はブロッコリーやオレンジカリフラワー、ニンジンなど。春秋はアンデスレッド(ジャガイモ)など多品種を栽培。

宮楠農園の季節野菜
(和歌山県紀の川市)

水茄子や千両茄子、白茄子をはじめ、ミニトマト、シシトウ、インゲンなど多品種を栽培する農園。独特の風味を味わえる地域の伝統野菜(在来種)も多く栽培し、自家採種してこの土地ならではの野菜をつくっています。

つぼい農園のクレソン
(和歌山県海草郡紀美野町)

標高300m。谷や川の清らかな水が育むクレソンがおいしい農園。6月末頃から12月半ばまでが野生味あふれる露地もの、その後6月頃まで味わいがマイルドなハウスものが中心に。現在、清浄心院では胡麻豆腐鍋でこの「高野クレソン」を味わえます。

西 仁さんの山椒
(和歌山県海草郡紀美野町)

数多くのぶどう山椒を育てる農家。手入れをしないと枯れてしまう繊細な山椒の木を、防虫の苦労などを乗り越え、精魂込めて栽培しています。毎年7月頃に家族総出で収穫し、木の芽や実山椒、乾燥山椒などをつくっています。

大家景延さんの山菜
(和歌山県海草郡紀美野町)

フキノトウ、ワラビ、ゼンマイ、コゴミなどの山菜、原木なめこやタケノコ、ユズなど。豊かな山の恵みがあふれる農家。夏はお米や山椒の栽培、冬は杉山の間伐材を切り出す林業を行っているそうです。

加工品

堀畑豆腐店の豆腐
(和歌山県伊都郡高野町)
堀畑朝さん、堀畑月美さん親子がつくる、心のこもった愛情豆腐。木綿豆腐などのさまざまな豆腐をつくる他、油の染み込んだ薄揚げや、カラッと高温で揚げた厚揚げが人気です。高野山内でつくった新鮮な豆腐は市販されず、清浄心院など縁のある山内寺院でのみ食べられます。

美里農産物加工所の金山寺味噌
和歌山県海草郡紀美野町)
高野山系の美しい水が流れる紀美野町の特産品。地元のお年寄りに作り方を習い、米麹から仕込むという昔ながらの自然発酵、伝統製法でつくられています。「金山寺味噌」はいわゆる「なめ味噌」の部類で、調味料というよりも、おかずや酒の肴として食べられる味噌のこと。味噌の中には地元で採れたウリ、ナス、紫蘇、生姜などが入り、カラダに染み込む、優しい美味しさ。

平野清椒庵の山椒
(和歌山県伊都郡高野町)
日本一の生産量を誇る有田川町産「ぶどう山椒」を扱うお店。和歌山県有田川町は温暖な和歌山の中でも標高の高い地域が多く、山椒の栽培に向いているため、江戸時代から盛んに栽培されてきた。代表商品の「山椒」は緑の粉山椒で見た目も美しく、フルーティで香りもさわやか。

麩善の生麩
(和歌山県伊都郡高野町)
創業約200年の老舗生麩店。人口保存料や調味料を使わず、無添加の原材料のみを使用した生麩が味わえます。ヨモギを混ぜた生麩でこしあんをくるんだ「笹巻あんぷ」が人気商品。紅葉シーズンなど繁忙期は昼過ぎには売り切れることも。

角濱ごまとうふ総本舗の胡麻豆腐
(和歌山県伊都郡高野町)
高野山内にある有名な胡麻豆腐店です。胡麻のほとんどをミャンマーの契約農家で無農薬栽培するほか、橋本市内などで生産された胡麻も使用。素材にこだわったものづくりをしています。5センチ四方に約5000粒の胡麻が使用されているほど栄養価が高い「角濱」の胡麻豆腐は、口あたり滑らかで優しい味。